Memories of summer

(不二 編)




手塚と海か・・・


英二とあそこで会わなければ、今ここで電車に揺られる事も無かっただろうに・・・

運命とは・・・不思議な物だね。

それにしても・・・・

愛想が尽きる・・・か・・・英二もよく言ったものだな・・・

こんな事で愛想が尽きてしまうなら、始めから手塚の事なんて好きになったりしない。

それなのに手塚・・・君も英二が言った事をそのまま真に受けて・・・

馬鹿だよ・・・



流れる景色の中、言葉少なくお互い窓の外を眺めながらようやく僕達は目的の駅に着いた。
















―――――海

そういえば、ここに来るのは六角と合同合宿をして以来かな?

あの時は楽しかったな・・・ビーチバレーをして罰ゲームに乾の作ったドリンク・・・

イワシ水

あれはホント酷かったよね。



「不二。何を笑っている?」

「あっごめん。ここに来るの六角との合同合宿以来だなって思って

それでその時にしたビーチバレーの罰ゲームを思い出しちゃって・・・」

「罰ゲーム?」

「そう乾特製イワシ水・・・鰯をそのまま搾ったとかで・・・最悪だったよ」

「想像しただけで気分が悪くなるな」

「飲んだ人はそれ以上だよ。でもさ・・飲んだ時のみんなのリアクションを思い出すと・・」



僕は耐え切れず声を出して笑った。



「楽しかったんだな」



あっ・・・そうだ・・・手塚はその時はまだ九州だったんだ・・・僕とした事が・・・



「うん。楽しかった。だけど・・・ごめん」

「何故謝る?」

「手塚も参加したかったよね」



みんなであのメンバーで合同合宿なんて・・・もうこの先に存在しない。

腕の事が無ければ、手塚だって参加したかっただろうに・・・



「そうだな・・・だが不二が楽しめたのならそれでいい・・・」



えっ・・・僕が・・・?

突然の言葉に驚いて見上げると、優しい眼差しを向ける手塚と目が合った。

やめてよ手塚・・・そんな風に言われたら・・・そんな風に優しい目を向けられたら・・・

期待しちゃうじゃないか・・・・

責任を感じて僕に答えるのではなく・・・

君も僕に恋をし始めているんじゃないかと・・・



「手塚・・・その・・・」



動揺を隠せないまま僕は手塚から目線を外した。

その時だった。聞きなれた声が僕を呼んだ。



「不二じゃないか!」

「えっ?」

「手塚も一緒か」



手を上げながら近づいて来たのは佐伯だった。



「佐伯・・・」

「やぁ二人揃ってどうしたんだ?泳ぎにでも来たのか?」

「いや・・・泳ぎに来た訳じゃ・・・」

「そうだよな。この時期に泳ぐのはやめといた方がいい。

まぁやめろと言っても・・・聞かない連中もいるけどな」

「君のところのメンバーだね。みんな元気なの?」

「あぁ。相変わらずだよ。今日もみんな揃って海に行ってるよ」

「そうなんだ」

「それより手塚。腕の方はどうなんだ?大丈夫なのか?」

「あぁ。暫くはラケットを持てないがな・・・大事には至らない」

「そうか・・・良かった。決勝はいい試合だったけど・・・

アレが原因で君がテニス界から消えるなんてあっちゃいけないからね・・・安心したよ」



佐伯は胸を撫で下ろすと、また僕の方へ体を向けた。



「不二。最近裕太くんとはどう?休みの間に家に帰って来る事はあったのか?」

「うん。何度か荷物を取りに来たり、こないだは久し振りにみんなでごはんを食べたよ」

「そうか・・・良かったな」

「うん。いつも気にかけてくれてありがとう」

「礼なんていいよ。俺と不二の仲だろ?」



そう言って佐伯が僕の腕を取った。



「そうだ。今からメンバーと合流するんだけど、不二と手塚も来るといいよ。

これから恒例の海鮮バーベキューをするんだ」

「えっ?あぁ・・・どうする?手塚」



手塚の意思を確認しようと見上げると、手塚は佐伯が掴んでいる僕の腕を見ていた。



「手塚。遠慮する事はないぞ。どうせアイツらが海で取った物がメインだし」



返事をしない手塚に佐伯が続ける。



「いや悪いが今日は遠慮しておこう。二人で行きたい所があるんでな」

「えっ?あぁ悪い。そうだよな、わざわざ二人でこんな所まで来るぐらいなんだ。

目的があって当然だよな。悪かったな引き止めて」



えっ・・・行きたい所?

そんな所あった・・・・?

急に決まった海だし・・特には何もない筈だけど・・・

手塚には何か行きたい場所があったのかな?


僕の思考が定まらない間に手塚が佐伯に答える。



「あぁ別にそれはいいが・・・手は離してもらえないか?」

「「えっ?」」



手塚が僕の腕を掴む佐伯の手に手をかけた。

その行動に思わず佐伯と一緒に戸惑いの声を上げてしまった。



「あぁゴメン。そうだよな。俺が不二の腕を掴んでいたら行けないよな」



佐伯はそう言って、パッと僕の腕を離した。


そうか・・・そうだよね・・・確かに腕を掴まれたままじゃ何処にも行けない・・・



「じゃあ俺は行くよ。また何処かの会場で会えたらいいな。じゃ!」

「あぁ。またね佐伯」

「またな」



佐伯はそのまま手を軽く振りながら小走りに海の方へと消えていった。



「行っちゃったね。それでどうするの?手塚。行きたい場所って何処?」

「あぁ・・・」



手塚はそれだけ返事をすると、無言で歩き始めた。

僕は置いて行かれない様に、急いで手塚の横に並んだ。



どうしたんだろう?

また機嫌が悪くなった気がする・・・

自分が心の中に決めていた予定が崩れて、気分を害したという事なのか・・・

それとも・・・まさかやっぱり・・・

いや・・・過度な期待は良くないよね・・・

あくまで手塚は責任感から僕に応え様としてくれているだけで

それ以上でも・・・それ以下でもない筈だから・・・


実際あの日手塚は僕に会いに来てくれて、僕達の関係はゆっくり始まったけど・・・

特に何かが変わったかといえば・・・答えに困るほど何も変わらない。


如いてあげれば・・・大石を目で追わなくなった事と僕と過ごす日が増えた事ぐらい。

恋人と呼べるほど親密でもなく・・・友達と呼ぶには一緒に居過ぎる・・・

微妙な関係

せめて手塚が僕の事を好きだと言ってくれれば・・・・・


駄目だ・・・手塚だけじゃない・・・今日は僕もどうかしている・・・


僕はそっと前髪をかき上げて、小さく溜息をついた。



「不二・・・疲れたか?」

「えっ?」



ずっと黙っていた手塚が僕の溜息に気付いたのか、心配そうな顔を向けた。



「ぜ・・・全然大丈夫だよ。それより目的地には近づいているの?」



佐伯と別れてからずっと無言のままで、結局何処に向かっているのか僕は知らない。

だけどあれからかなり歩いた事は確かだ。



「すまない・・・不二」

「何が?」

「目的地など始めから無いんだ」

「えっ・・?」



目的地が始めから無い・・ってどういう事?

じゃあどうしてここまで歩いて来たの?



「手塚・・・説明してもらえる?」



手塚は僕を見つめて、更に遠くに視線を移動させた。

風で髪がなびいている。



「佐伯と親しいいんだな・・」

「佐伯?」



どうしてここで佐伯の名前が出るのか・・・?

僕は目的地が無い事の説明をしてもらいたかったんだけど・・・


少し困惑しながら僕はそれでも手塚の質問に答えた。



「幼馴染だしね。それに裕太の事をいつも佐伯なりに考えてくれているし・・・

でもそれは今に始まったことじゃない。手塚も知っていると思っていたけど?」

「そうだな・・・理解しているつもりだった」



手塚は遠くに向けた視線を僕に戻すと、じっと僕を見つめる。



「だが改めてその場を見るのは、いいものじゃない・・」

「えっ?」



わからない・・・手塚は何を言おうとしているの?

僕は目的地の話を聞いたんだよ?

それなのに・・・これは・・・



「いや・・悪い・・・回りくどい言い方をしているな・・・」



手塚はまた僕から視線を外すと今度は目を瞑った。


駄目だ・・・鼓動が早くて顔が熱い・・・

期待しちゃ駄目だと思うのに何処かで期待してしまう。

手塚・・・・



「不二。改めてこんな事を確認していいのか・・・ずっと悩んでいたが・・・」



そういうと手塚は目を開けて僕を見据えた。



「俺はお前にずっと想い続けていたと言われたが、好きだと言われた訳ではない。

そんな俺が何処までお前を束縛していいのか・・・

そもそもこんな風に思う資格があるのか・・・・わからないが・・・

誰かがお前に触れるのを黙って見過せるほど、俺の許容範囲は広くない。

目的地も無くただその場から遠ざかる為だけに歩いてしまう程にな・・・」



えっ・・?それって佐伯の事を言ってるの?

それで目的地も無くここまで歩いて来たの?

それが僕の質問への答えなの?



「て・・・づか・・・?」

「不二。お前が知るように俺は大石の事をずっと想っていた。

だが今は・・・お前しか目に入っていない。

信じてもらえないかも知れないが・・・いや違う・・・信じてくれ不二。

俺はお前が好きだ・・・」



手塚の手が僕の頬に触れる。

僕は瞬きすら出来ずに手塚を見ていた。


好きだ・・・って・・・・僕の事を・・・?

責任感から応える訳じゃなく・・・僕を見てくれるというの?

僕に恋をしているの・・?



「不二。出来れば今の不二の想いも聞かせてもらえないだろうか?」



微かに手塚の手が震えている気がする。

君でも緊張する事があるんだね・・・手塚

この震えが今の君の僕への想いを誠実に伝えてくれている。

信じていいんだね。

それなら僕も隠さない・・・


僕はそっと僕の頬に触れる手塚の手に自分の手を重ねた。



「好きだよ。今も昔も変わらず・・・僕の目の中に映るのは君だけだ」

「そうか・・・ありがとう」



手塚が優しく微笑んだ。

手塚・・・そんな笑顔を向けるなんて・・・ずるいよ・・・

好きだと言われただけで十分なのに、それ以上を求めてしまう。

今なら応えてくれるんじゃないかと欲を出してしまうじゃないか・・・



「手塚・・・」



僕は手塚に笑顔を返しながら、空いた右手で手塚の眼鏡を取った。



「不二?」



手塚が驚いた顔を僕に向けたけど、僕はお構いなしに目を瞑った。


手塚が海岸線を外れて歩いたから、今この雑木林には僕達だけ・・・誰もいない。

いないんだよ。

手塚・・・僕が眼鏡を取った意味がわかる?

目を瞑っている意味がわかる?

気が付いたなら応えて欲しい。

僕の3年分の想いを受け止めて欲しい。

手塚・・・・


手塚の手が僕の肩に置かれる。



「いいのか・・・?」



僕は何も応えずそのまま目を瞑り続けた。

それが僕の返事



「・・・愚問・・・だったな・・・」



呟くように掠れた手塚の声が耳に届くと、フワッと顔に風が当り唇に君を感じる。



そうだよ・・・愚問だよ・・・手塚

僕はもう何年も君に恋をしていた。

ずっと君に触れたかった。

それ以上に触れて欲しいと思っていた。

だからこんな事で戸惑ったりはしない。



重なっていた唇が鼻先が触れる程度に離れた。

至近距離で手塚と目が合う。

手塚の目は今までに見た事の無い甘美な色を含んでいた。



「不二・・・」

「手塚・・・」



今度は僕から唇を重ねた。



君が僕に恋をしてくれていると知った以上もう遠慮はしない・・・




僕は君を・・・狂おしいほどに愛してる



                                                                          END





最後まで読んで下さってありがとうございますvv


以前コメントで嫉妬した手塚が見たいというのを頂いたので・・・今回は手塚に妬いてもらいました。

こんな感じで良かったのか・・・それよりも何よりも読んで貰えていたら嬉しいのですが・・・

いつも拍手を下さる方、コメントを下さる方、こんな形でしかお礼は出来ませんが・・・

これからも宜しくです。